イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
このまま放置して、仕事にも支障が出たらまずい。
どうしたものか、壊れたカップを無言で見つめていた時だった。
「歩実?」
突然名前を呼ばれ、びくっと肩が跳ねる。
「郁人? おかえりなさい」
今日は会社には戻らず取引先から直帰するのだと思っていた。郁人の目は、私を見てから次に私の手元に向けられた。
「あ。壊しちゃって」
すぐさま、ゴミ箱に捨てなおしたが、郁人は眉を顰める。
「誰が?」
「私が」
じっ、と不審な目で見つめられ、私の方は気まずくなって目を逸らす。郁人との結婚が原因で周囲と上手くいかなくなっているなんて、知られたくなかったのに。郁人の視線は全部見透かそうとするかのように、私の顔から逸れない。
嘘をつくな、と目で叱られているような気になってきた。