恋を忘れたバレンタイン
「主任…… こんなことろで座ったたら、動けなくなりますよ」

 彼が、私の腰に手をまわしていた。


 彼は、そのまま歩道から乗り出し手を上げた。運よく、通りかかったタクシーが止まり、私の体を座席に押し込むと彼も乗り込んできた。


 シートにもたれると、体の力が抜け意識がもうろうとし始めた。

 私は、確かに自分のマンションの住所を言った。

 肩に回った彼の手に力が入り引き寄せられると、体を起そうと思うのに、力が入らずそのまま意識が遠のいて言った。


 どのくらいタクシーに乗っていたのだろうか?


「大丈夫ですか? 降りますよ」

 その声に、まぶたを開けると、彼の目と合った。


「ええ……」

 返事をしながら重い体を、タクシーの外に出した。

 タクシー代払わなきゃと鞄に手を伸ばすが、それより先に彼が千円札を数枚出し運転手に渡した。後で返さなければと、ぼーっとした頭の中で考えていた。

 マンションまで歩こうと、足を動かそうとしたが自分の住むマンションが見当たらない。


「ここどこ?」


 私は、辺りを見回した。熱で、自分のマンションも分からなくなってしまったのだろうか?


「あれが、俺のマンションです」
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