恋を忘れたバレンタイン
バレンタインデーの過ち
　額に、何かが触れた感覚に、うっすらと目を開けた。
　カーテンの隙間から、朝陽がもれている。


「まだ、熱があるみたいですね？」


うん？　
なんの事？
誰の声？

　一瞬、どこにいるのかさえ分からなかった。


その時、目の前に心配そうに見つめる目が現れた。

　その瞬間、全てを思い出して体が固まった。
　私は、彼の腕の中で朝まで眠ってしまったのだ。

「病院行きましょうか？」

　彼は、夕べの続きの会話のように、何の抵抗もなくさらりと言うが、私の頭は一晩同じベッドで寝てしまった事にパニックを起こしている。


「いいえ、大丈夫よ。それより仕事に行かなきゃ」

　私は、体を起そうと力を入れたが、彼の腕にぎゅっと押し付けられ動く事が出来ない。


「この体で仕事は無理です」

　彼の声は落ち着いているが、厳しいものがあった。

　それでも、私は、体に力を入れた。


「忙しいのよ。午後から会議もあるし行かないと」


「無理ですよ。とにかく熱を測って下さい」

　彼は、片手を伸ばし、体温計を手にするとピピッと電子音をたて、トレーナーの中へ入れようよした。


「じ、自分でやるわよ！」

　慌てて、体温計を奪い取った。


「ふふっ」

　と、彼の笑い声がし顔をあげると、楽しそうに笑っている。

　会社での愛想のいい顔と違う笑った顔に、私の頬はカ―っと熱くなった。
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