恋を忘れたバレンタイン
逃げ出したバレンタインデー
 バタンと玄関のドアが閉まる音に、目を覚ました。


 何度か喉が渇き、ペットボトルを口にした記憶があるが、今何時だろう?


 すると、すぐに寝室のドアが開いた。


「気分はどうですか?」

 彼は、ベッドに近づき私の顔を覗きこんだ。


 ぐっしょり汗をかいているが、気分はすっきりしている。
 薬が効いたのだろう……


「ええ、だいぶ楽になったわ。ありがとう…… もしかして仕事の途中?」

 私は、心配になり彼の顔を見た。
 彼は、少し呆れたように私を見下ろした。


「今日、直帰って言いましたよね。もう、五時過ぎていますよ」

「ええ!」

 私は、驚いて飛び起きた。

 窓の方を見ると、もう薄暗くなっている。どれだけ、眠っていたのだろうか?


「主任、疲れていたんですよ。体が休みたいって警告していたんです」

 確かに、彼の言う通りかもしれない…… 
 でも、そんな事を人から言われると、張りつめていたものが緩んできてしまう。


 彼は、カジュアルショップの袋を私の前に置いた。

 驚いて彼の顔を見ると、うっすらと頬が赤くなった気がした。


「適当に買ってきました。お風呂入れるので入って下さい」

 彼は、そう言って私の返事も聞かずに、寝室を出て行ってしまった。


 私は、彼に渡された袋を開けると、驚いて目を見開いた。

 カップ付きのキャミソールと下着、部屋着、携帯用のスキンケアが入っている。

 今の私には、かなり有難いが彼はこれを買うのに、かなり勇気がいたのではないだろうか? でも、もしかして買い慣れてるとか? 

 そう思ったら、少しだけ胸の奥が痛んだ。
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