復習したい
♦︎3潰された手と潰した手

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小さな町工場、というには大きいし、かといって大工場かと言われれば小さい。ただ大手企業とも取引のある半導体の部品を作っているのが私の家。父はそこの工場長兼社長であった。


私は幼い頃から父が大好きだった。父の手は大きくて、ゴツゴツしていて、けど温かく、優しさがあった。


父の周りにもいくつか工場があり、年末年始になると、工場仲間や、中小企業の社長さんなどが私の家に集まって年を越した。そのおじちゃん達も私は大好きだ。

温厚な母は工場の経理を担当しながら、私が小学校に上がると毎日欠かさずお弁当を作ってくれた。

優しい両親、友達から羨ましがられた事も多々ある。私にとっても自慢だった。



友達も恵まれて、毎日が幸せだった生活が一変したのは、中学2年の春の事。
取引していたある大手企業の担当者が変わったのだ。

以前の担当者は工場側の立場に寛容で、寄り添って考えてくれるとても良い担当者だったが、新しい担当者は企業の利益ばかりを優先する人だった。

最初は無理強いにもなんとか対応していたものの、限界は直ぐに来た。


「すみません。本当にもうこれ以上は...。質を下げる訳にもいきませんので...」


「そんな事言われましてもね〜。こっちだって困りますよ〜。契約を考えなくちゃいけなくなりますね〜。」

「...すみません。出来るか考えてみますんで、契約だけは...」


この会話をもう何度聞いたから分からない。この頃、日本の工場経営は人手不足、材料費の高騰化などで非常に厳しかった。そんな中で1つでも取引を打ち切られるのは工場としてはなんとしても避けたい。担当者はそれを盾に交渉を何度もして来た。

そしてーー...
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