その日から、私は、家では水城チーフを『お兄ちゃん』と呼ぶようになった。
『名前で呼んで』と言われた時のように、なるべく呼びかけないよう、逃げてしまうのではいけない。
これは、私を『妹』として見てもらうため。
『兄』になってもらうために、私自身が提案したことだ。


そうなると、私から積極的に会話を仕掛ける必要があった。
初めて母たちの前で呼ぶ時は、いきなり呼び方を変えたことを変に思われるんじゃないかと身構えて、ものすごく緊張した。


私の声が上擦ったのもあるけれど、チーフだけじゃなく母も義父も反応して、『え?』と注目を浴びてしまった。
目を丸くしている両親の前で、チーフは一瞬怯んだ様子を見せたものの、すぐに取り繕って返事をしてくれた。


母は、彼の反応を探るように観察した後、どこかホッとしたような吐息を漏らした。
そしてすぐに、からかうような目をして、『あらあら』と顔を綻ばせる。


『仲直り、できたの? 瑞希と司さん、随分仲良くなったのね。でも、会社で間違えないようにね』


その言葉には、ほんのちょっとズキッと胸が痛むのを感じた。
だけど、義父も目を細めて何度も頷いてくれたから、私はそれを自信に変えた。