野獣は時に優しく牙を剥く
10.知れば離れるに決まってる

「気に入ってくれるといいけど。」

 玄関の前で振り返った谷に最初の頃を思い出す。
 一緒に谷の自宅へ来て、ものすごく散らかっていた部屋に驚いた。

 今回はそんなことないはずだとドアを押さえてくれている谷に軽く会釈をして中へと入った。

 入るといいにおいがして、その正体は部屋の奥に来て判明した。
 高級レストランを思わせる料理がテーブルに並べられている。

「これは………。」

 澪は愕然として言葉を失った。

 やはりそうだったのだ。
 谷は家事をやれないわけじゃない。
 やらないだけだ。

 完璧だと思う彼の唯一の弱点は澪が描いた絵空事だった。

 今まで得意になってやってきたことが急に恥ずかしくて情けなくなった。

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