野獣は時に優しく牙を剥く
7.大切な人

 谷と行くのは二度目になる自宅は明るい日差しの中でボロ屋なのが隠し切れていない。
 あの豪華なマンションの後にここへ来ると魔法が解けたような気さえしてしまう。

 それでも澪にとっては何にも代え難い大切な場所であるのは変わりなかった。

 古びた扉は開けるだけで音を立てて、その音に祖父は喜び勇んで玄関まで出迎えてくれた。

「龍之介くん。
 昨日は澪が迷惑をかけたな。
 澪が何か粗相しなかったか?」

 仮にも可愛い孫娘を朝帰りさせた男へその態度はあんまりじゃない?
 と、澪は祖父を恨めしい気持ちで見つめた。

 谷は谷で完璧な態度でにこやかに返す。

「いいえ。
 普段は僕の方が澪さんに世話をかけているので。
 それに、、。」

「それに?」

 祖父が聞き返し、澪もなんだろうかと隣の谷の横顔を凝視した。
 綺麗な横顔がいつもより固いことに気づく。

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