クラスメイトの告白。


恋愛経験のない私が言うことなんて、大きなお世話かもしれない。


だけど……だけど……。


「紫蘭ちゃん……自分のこと、大切に思えてる?」


「え……?」


「好きな人のそばにいるために自分の気持ち何も言えなくて、相手の好きなようにされて……このまま相手から大切にされないことに慣れちゃいそうで怖いよ」


傷つけられることに慣れたら、自分のこと大切にできなくなる気がするの。


自分は傷つけられてもいい存在だって、思いこんでしまう。


そんなの悲しいよ。


「そうですよね……誰がどう見たって遊ばれてるだけだし……。相手に大切にしてほしいって願うだけで、結局は自分から傷つくようなことして……自分を傷つけているだけ……」


「いまの関係を続けるのも、やめるのも、決めるのは紫蘭ちゃんだけど……自分のこともっと大切に考えてほしい」


「汐野先輩……」


「自分のことも大切に想えて、相手のことも大切に想えて、相手も自分を大切に想ってくれる……いつかそういう人が現れたとき、いま過ごしている時間や気持ち、きっと後悔するんじゃないかなって……」


彼女は少しのあいだ黙りこむと、私に言った。


「ひとりにしてもらえますか……?」


「なんか、ごめん……私えらそうに余計なこととか、いろいろ言い過ぎちゃったよね」


彼女は首を小さく横に振る。


「汐野先輩と話せて、よかったです」


「本当にひとりにして、平気……?」


「はい」


立ち上がった私は、紫蘭ちゃんを残して階段を下りていく。


答えを出すのは、紫蘭ちゃんだから。


簡単なことじゃないと思う。


あきらめるのも。


いまの関係を続けるのも。


相手に気持ちをちゃんと伝えるのも。


どんな選択をしても、きっとつらい思いをすると思う。


だけど、傷ついてばかりの恋より、幸せな恋をしてほしい。


相手のことだけじゃなくて、自分のことも好きになれるような。


大切に想い合える……私はきっと、そんな恋に憧れているんだ。
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