サイドキック
act.2
門を潜り、無駄に広い敷地へと足を踏み入れた。
「………」
無表情のまま大きな噴水へと目を向け、そのまま巨大なガレージに視線を伸ばす。
無数に停められた高級車の中にある人物のモノが無いことを確認すると、思わず安堵の息が洩れた。
まあ、こんな昼間から帰宅していることなんて無いし。
居ないことが普通だと思えるほど、アノヒトが此処に戻ってくることは稀だ。
初めから杞憂として終わることが分かっていても、知らずの内に確認してしまう自分はまだ弱いのかもしれない。
「ただいま、」
「香弥ちゃん!お帰りなさい」
玄関に入って直ぐのこと。
私が末端まで言葉を紡ぎきる前に声を被せた女性は、引き留めるメイドさん達なんて気にもせず足早に向かってくる。
「……、お母さん」
そんなに急いだら危ないよ、と。柔に言葉を音に乗せれば、娘という贔屓目無くしても可愛らしい笑みをその端整な顔に浮かべた。