恋じゃない愛じゃない
知らない人
今日は団体予約が入っているので閉店まで仕事。その分のお金が出るので店長に、頼まれてくれない? と言われたときは即答した。

「どうする? 料理つくるだけつくってバックレられたら。最近多いらしいじゃん、無断キャンセル」

「俺らもツイッターで呟くか」

「そうなったら持ち帰りオーケーですか?」

料理長と店長とバイトがそんな会話をしていたが、杞憂だった。

10名様以上の予約が入ると、大きく売上が立つことはもちろん、お客様が多く入る日が確定したことによる、経営上の安心感もあるし、メリットが大きい。

パーティーメニューは、3000円、3500円、4000円とあり、プラス1980円飲み放題も付けることが出来る。合計6品。前菜、サラダ、揚げ物盛り合わせ、パスタ、メイン、デザート。ご予算とご要望に応じている。


「ありがとうございました」

最後のお客様を見おくると、まかないを食べる希望者を料理長が店員みんなに尋ねる。

夜はお客様が帰った後、店内のテーブルを使ってみんなで食べるが、昼間は休憩室で各自とるようにしていた。まかないがスタートするのは、だいたい14時30分-16時頃の間と20時-23時頃。店長が「〇〇さん、まかない行ってね」と指示を出してくる。ベテランバイトになれば自分のタイミングで行くことも可能。1人ずつ回していくこともあれば、2人同時に回していくこともある。2人の場合、同じポジションから一気に2名行くと穴が空くので、だいたい厨房から1人、ホールから1人という感じだ。

元々今日のまかない当番は、遠藤さんだったのだけど、妊娠中の奥さんが予定日より産まれそうということで休んだので、わたしが代わりを努めることになった。

作るのは嫌いじゃない。

バットを取りに行く。

ボールを洗いに行く。

ガス台の空きを見に行く。

大きなフライパンにたっぷりのオリーブオイル。

中には、微塵切りのにんにくと、つやつやした赤唐辛子がチリチリしてる。

バットには、椎茸、しめじ、エリンギ、いろんな種類のきのこを、食べやすくほぐしておく。えのきの軸も、入れてしまえ、とその中に入れる。

普段なら大きさ揃えたり分量調整したりするんだけれど、だいたいのところで済ませてしまう。

パスタを自由に泳がせることの出来る十分な大きさの鍋はなかなか家では用意出来ないな、と思いながら、鍋にたっぷりの水を張り、完全に沸騰させてから、パスタを投入。

大きな寸胴鍋に、たっぷりのお湯が沸いて、中のパスタがゆらゆら。

かき混ぜたパスタの表面は、すごく荒れてしまう。まるで、傷んだ枝毛みたいに、めくれ上がった表皮。パスタのつるつる感がなくなり、ソースの絡み具合が悪くなる。

一方、かき混ぜずに茹でたパスタは、組織が一方向にそろっていて滑らかで、仕上がりが全然違う。

茹で始めに、軽くパスタをかき混ぜておく。

茹でている間は、パスタを混ぜない。湯の勢いにのって、パスタが自然に対流するくらいの火加減(沸騰)を保つ。かき混ぜる手間も省けて、そのうえ食感も良くなるのだ。

そうこうしている間に料理長がトマトスープを作っていた。

刻み海苔と、これも料理長が、遅い! とやってくれた、まるで絹糸のような細切り大葉が、ふんわりたくさん乗っかって、熱々のパスタはコシがあって、きのこも歯ごたえが残ってて、うん、美味しく出来たと思う。ちょっと濃い目の味ににんにくが効いて、かくし味の醤油が全体の味を上手くまとめてくれている。白ワインが一杯飲みたい。

トマトスープは、ポタージュではなく、チキンコンソメの中に角切りのセロリとくし切りにしたトマトが入っていて、口の中がさっぱりした。意外と優しい味。
< 14 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop