「……いいから、逃げ「くれはぁ!!」

 
 その声を聞いた瞬間、世界の崩れる音が聞こえた気がした。


 洗面所に入ってきた美桜さんは、カッターを持っていた。


 美桜さんは紅葉さんの肩を押して、思いっきり壁に押し付けた。そして、カッターで、紅葉さんの髪を切り裂いた。


「みっ、みお……」


「なぁ紅葉、俺、お前雇った時言ったよなぁ? 裏切ったら許さないって」

 美桜さんが肩を掴む力を強めたのか、紅葉さんは、痛そうに顔を歪めた。


「いたっ!……別に、俺は辞めないんだから、問題ないだろ」


「そう言うことを聞いてんじゃねぇんだよ。じゃあ、お前が妖斗の代わりに俺の犬にでもなってくれんの?」


「なるわけないだ…ぐっ!?」

 美桜さんが、もう片方のがら空きになっていた拳で、思いっきり紅葉さんの腹を殴った。


「紅葉さんっ!?」

「ゴホッ、ゴホ。……逃げろ、妖斗。今すぐに!!」


 頼りげのないかすれた声を上げて、紅葉さんは言った。

 いや、ここで、……逃げちゃダメだろ。

逃げろって言われたからって本当に逃げたら、母さん達が死んだあの時と同じだ!!


「……すみませんっ!!」


 俺は震えながらも、洗面所のそばにあった棚からドライヤーを出し、それで、美桜さんの頭を思いっきり叩いた。