エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
魔石の願うもの

「そうよ、私の美しさがあれば、宝石なんてなくても、ヒューゴの愛を取り戻せるわ。返してちょうだい、ベリル!」

憎しみの目に射すくめられ、身動きできなくなったベリルの頬に、伸びた爪が食い込んでくる。
痛みとともに感じるのは、シンディの狂気だ。ぎらついた瞳は、理性なく戦う獣のようで、ベリルは恐怖に立ち尽くしてしまう。
その瞬間、シンディの胸元のエメラルドが怪しく光った。それは中心から生まれ出で、見る見るうちに広がってふたりを包んだ。

(嘘……こんなタイミングで?)

次の瞬間、ベリルの目に映ったのは、シンディの顔だ。
目の下にはクマができ、ぎらぎらと余裕のない目をしているけれども、間違いない。ということは……。

「私たち、戻ったの?」

ベリルは震える手で自分の顔を触る。鼻の高さ、唇。シンディのものとは違うそれを、信じられない思いでなぞっていく。
前はできないと言っていたはずなのに、こんな簡単に顔の入れ替わりが戻ってしまったことに驚きを隠せない。

「やった……、やったわ。戻った。これでヒューゴのもとへ行けば……」

「シンディ姉さま、落ち着いてよ。戻ったってことは、あなたがローガン王子の婚約者なのよ?」

シンディはハタと動きを止め、頭をかきむしるようにして金切り声を上げた。

「そうだったわ……。じゃあどうすればいいの! 私は」

やっていることは滑稽だが、シンディの鬼気迫る表情のせいで、いっそ恐ろしく見える。完全に冷静さを失っているシンディに、ベリルはどう声をかけていいのか迷った。
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