平凡女子ですが、トリップしたら異世界を救うことになりました
第一章
 都内にある女子高校の体育館では、剣道部の元気な声が響いている。

「め―ん!」
「山喜(ヤマキ)さん、もっと中心に当てて! 腰に体重を乗せるの!」

 後輩たちの練習を見ている鈴木(スズキ)桜子(サクラコ)は、有名な体育女子大学に入学が決まり、引退している三年生だ。

 艶やかな長い黒髪はシンプルな赤いゴムでひとつに結び、肩甲骨の辺りで動くたびに揺れる。小学校の低学年から剣道を始めた桜子は、高校生ながら全日本代表にも選ばれるほど強く、三段の有段者だ。

 加えて、漆黒の瞳は大きく、なにもつけていない唇はさくらんぼのような色で、美少女である。

 白い道着に袴の凛とした立ち姿は誰しもうっとりするほどで、後輩たちから憧れの対象になっている桜子だ。

「桜先輩が体育館にいるって!」

 みんなから「桜子」ではなく、言いやすい「桜」と呼ばれている。

「見に行かなきゃ!」

 などと、桜子の追っかけなどもいる。

 女子校ならではの、先輩美少女に憧れる生徒たちで、体育館の隅ではいっぱいになるほどである。

「しーっ、今練習試合中よ」

 次々体育館に入ってくる女子生徒。彼女たちは一辺九~十一メートルの四角いコートの中で戦っている桜子に注目する。

 桜子は二年の主将を前に竹刀をかまえ、彼女の動きを微動だにせず見つめていた。

「めーん!」

 二年の主将が竹刀を桜子の面に向けて振り下ろす。それを桜子は竹刀ではじき、逆に彼女の小手を狙う。

 
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