エリート御曹司は獣でした
ショルダーバッグの持ち手を握る手に力を込める。

頑張ろうと気合いを入れた私は、久瀬さんの後を追う。

彼が先に事業部のドアから出ていき、二秒遅れて私も続こうとしたら、「ちょっと」と誰かに、斜め後ろから呼び止められた。


振り向けば、睨むような視線を向ける、乗友さんがいる。

嫌な予感しかないが、「なんでしょう?」と問いかければ、フンと鼻を鳴らされた。


「聞いたわよ。初歩的なミスをしたそうね。相田さんは仕事ができる方だと思っていたのに、もしかして……わざと?」


棘のある言葉をぶつけられたのは、私が久瀬さんとふたりで外出することが気に入らないためであろう。

先週、乗友さんは、ランチデートの見返りを期待して、黒酢肉団子弁当を彼に差し入れていた。

残念ながら彼女の狙いは実現しなかったようで、その二日後に久瀬さんが、『この前のお礼』と言って、有名店のサンドイッチを渡しているところを、私は見てしまった。

お洒落で美人、かつ同期であっても、彼女の誘いに久瀬さんは乗ってくれない。

それなのに、どうして年中、肉の話ばかりしている女が、彼の隣を歩けるのかと、文句を言いたい気持ちなのではないだろうか。

悔しそうな表情から、それが伝わってきた。

< 65 / 267 >

この作品をシェア

pagetop