月杜物語
ポテトットン危機。
あたし、高槻あゆみに市の行政官からの連絡が入ったのは、数年前のことだった。

「もしもし、高槻さんですか?」とケータイ。
「はい。
高槻あゆみです」とあたし。

「えーと、B地区でポテトットンが大量に種子を散布して、B地区のダクトが詰まっています」

ダクトというのはこの月面都市の空気を入れ換え、不活性分子であるアルゴンと窒素を循環させ、人間が消費した酸素を再補給し二酸化炭素や他の有害物質を排除する仕組みのことだ。

「それは大変ですね」
「そうですよ。ポテトットンの種子で粉塵爆発が起きるかもしれないのですから」

「それは起こりませんよ。
何故ならポテトットンの種子は化学的に安定し、ほとんど珪素に近い有機化合物ですから」とあたし。

「そうでもないでしょう?
ポテトットンも種子である以上、糖分やデンプンを持っているはずです。

ポテトットンの種子は0.02mmメートル。
熱分解し、粉塵爆発を起こす可能性は?」と清掃行政官。

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