墜落的トキシック
▼ Ⅱ ▼ 打算的トラップ

優しい人






6月中旬。




「────この続きは昼休みに」


「わかった。侑吏くんの席まで行くね」


「……や、空き教室の方がよくね?静かだし」


「そうかな。じゃあ、それで」





業間休み、侑吏くんとの短い会話を終えて自分の席に戻る。




6月の席替えの結果、
私は窓際の席を獲得した。



苦痛だった侑吏くんと隣の席での生活は無事に終了したというわけだ。





「……」





窓の外をぼんやりと眺める。

外では灰色の雨雲がもくもくと空を厚く覆っていた。




最近の空模様はずっとこんな調子でどんよりとしている。




もうそんな時期か、とため息をついた。

梅雨の始まりだ。




一番嫌いな季節がやってきた。




じめじめと湿気た空気も、ほんのりと漂い続ける雨の匂いも苦手なんだ。


頭がぐわんぐわんとする。




いつもなら嬉しい窓際の席も、この季節ばかりはハズレかもしれない。


暗鬱な気持ちになりながら、うつむいていると。





「なーに辛気臭い顔してんのー」

「……麻美」





独特の間延びした口調に顔を上げると、麻美が椅子をひっくり返してこちらを覗き込んでいた。



そう、今度こそは麻美の近くの席なの。

近くっていうか、前後。
かなりの強運である。




ちなみに麻美が前で、私が後ろだよ。





< 136 / 323 >

この作品をシェア

pagetop