氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
最終章 永遠に
泉の近くにある人里はとても貧しく、ただ食料を与えるのではなく、農業支援や農地の開拓など出来うる限りの支援をすると約束すると、喜んで快諾してくれた。

伊能は彼らを統率するため人里に滞在することになり、文でそれを伝えてきた伊能の几帳面な字を読んだ朔は、氷雨に文を手渡した。


「うまくやってくれているようだ。ところで今日の朧はどんな感じなんだ?」


「ああ、まあいつものように俺のことだけ忘れてるよ。なんか俺も慣れてきた」


伊能を人里に派遣してから数日が経っていた。

その間も朧は望むとべったりで、引き剥がすと火がついたように泣くため、実の所朔たちも手が出せなかったのだが――ある変化が起きていた。


「だが体調は少し回復しているように感じる。風邪のような症状も治まったし、笑顔も戻ってきている」


「そうなんだよな。ちょっとずつ元気になってるみたいだけど、逆に…おっと」


声を潜めて話していると、庭で望と遊んでいた朧が戻って来た。

縁側に招き寄せた朔は、朧に気付かれないよう注意しながら望のとある変化を見ていた。


「最近少し大人しくなったと思うけど」


「そうなんです。それに角の先端が少し丸くなってきた気がして…どう思います?」


朧が望の両脇を抱えて朔の前にぶら下げると、朔と氷雨は望の額の中心に生えている角を注視した。


「確かに丸くなってる。主さま、どう思う?」


「鬼族の角は丸くなんてならない。これは何か意味があるはずだ」


相変わらず氷雨のみを敵視して目をぎらぎらさせている望の頭を軽く拳でぽこんと叩いた氷雨は、頬をかいて立ち上がった


「一応晴明に訊いてみるか」


大きな転機が訪れていた。
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