悲しみの理由を忘れた少女

3節

〜再び涙する〜

「次、誰?」

「ちょっとマイクどこ?」

「おぉっ、来ましたこの曲。」

賑わうカラオケルーム。

何故だか西条くんの事が頭から離れない。私はそれに耐えれず外に出た。

「何してんの、こんな所で。」

ボーっと壁を見つめる私の所に彼は来た。

「何もだよ。西条くんこそ。」

私がそう言い見上げると、少し困った顔をする彼がいた。

「ごめんね。俺、この前急に変なこと言ったなと思って。」

何でそんなに優しいんだろう。

違うの、謝らないで。
むしろとても嬉しかったんだから。

「違うの。そうじゃないの。

人前で泣くなんてもう何年もしてなかったから。

こっちこそ、ごめんね。

だから、どうしたらいいのか分からなくて。」

幻滅したよね。

私が向けた笑顔は下手くそで、西条くんは見透かすように私を見つめた。

「ずっと、一人で。誰もいない時にああやって、泣いてたの?」


『人前で泣くなんて何年もしてなかったから。』
西条くんはそのサラッと言った言葉をすくい上げてそう言った。

包み込むようなその声と言葉に私は目を見開いた。

「ずっとずっと、何年もああやって。一人で全部抱えて。」

何、言ってるの?

蓋をしていた心にそっと入ってきたその声は、有無を言わさず麻痺していた心に優しく注がれた。

目元が急に熱くなる。

「西条くん、何言って。」

声が少し震えた。

「ごめんね、私もう帰る。

ありがとね。

この前のこととか、忘れて。西条くんには、関係ないから。」

私は、こんなに泣き虫じゃないはずなのに、どうしたんだろう。

西条くんの顔も見ず、私は俯いたままそう言った。

西条くんに背中を向けてそこから逃げるように私は帰った。

また、逃げるように。
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