紡ぐ〜夫婦純愛物語〜
藤田 センに持ち上がった結婚話。
「………え?」
私は居間に座って素っ頓狂な声をあげた。
目の前に座る父から驚く事を告げられたからだ。

私、藤田 センは呉服屋である、豪商 藤田屋の娘として生を受け16年。今日ほど、驚いた事は無いだろうと回らない頭の片隅で思っていた。

遡ること数分前、東京にある呉服の店とは別に私達が暮らす洋風な屋敷で、父に呼ばれた私は居間の椅子に腰掛けている父と母の前に座るよう言われ、二人の正面に座った。
「セン、お前と野崎さんの息子さんとの縁談が決まった。」
父が言った言葉を私は一瞬理解できずにいた。
「薬種問屋の野崎さんよ。由緒あるお家柄だし、大店の店でもいらっしゃるしいいお話でしょう。」
母も笑顔で良かった良かったと言っている。
「………え?」
やっと絞り出せたのはその素っ頓狂な一言だった。

「あちらさんから、お話をいただいてね。良いお話だから承諾しておいた。何でも家のお得意さんから、センの話を聞いたらしくてね、是非と言われたんだ。」
何時もは厳格な父も、今日ばかりは顔が緩んでいる。
嬉しそうだ。

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