【短】あなたが見えない
冷たい風がとても身に染みて、痛いくらいの日が続き、「あぁ、冬の底なんだなぁ」なんて、かじかんだ指先を擦り合せながら、思った。

そんな中、私の彼氏サマは、今日も今日とて絶世の美人さんな取り巻きに囲まれ、豪快に笑っていた。


「…ちぇー。本物の彼女サマは私なんですけどねー?」


でも、そんな言葉は誰にも届くはずがない。
だって、いつもそれは心の中で呟かれるものだったから。

滅茶苦茶寒い中で、ゴミ箱を焼却炉に持っていき、白い息を零して教室に戻ってくると、悪びれもせずに敬太が声を掛けてきた。

向こうから、このタイミングで声を掛けてくるなんて珍しいなと思い、もしかしたら一緒に帰ろうとか言ってくれるの?なんて、淡い期待をするも、それは呆気無く弾け飛んだ。
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