剛力家の三兄弟
第8章 判決の時

目を覚ますと、隣には禎憲さんが気持ちよさそうに眠っていた。

昨夜の事、夢じゃなかったんだ・・・
何度も愛してると囁かれ、彼は躰じゅうにキスを落としてくれた。
私の躰は、彼によって更に熱を帯び、頭の中はずっと痺れていた。

初めて見る彼の男の顔・・
昨夜の彼はとても優しく、時には獲物を喰らうケモノの顔をしていた。
彼のあの顔を、今まで何人の女(ひと)が見てきたのだろう。
悔しくもあり、悲しくもあるこの気持ち・・・
過去の事は、どうする事も出来ないのは分かってる。
でも・・・
でも、今はもう私にだけに見せてくれる顔。
誰にも見せる事なく、私にだけに・・

自分の頬に掌を当て、ニヤケているであろう自分に可笑しくなる。

「なに百面相してる?」

眠っていると思っていた彼が、いつのまにか、目を開けていた。

「えっ?
いつから起きてたの?」

「真奈美が起きる前から?」

嘘っ・・
「酷い!
起きてるなら、早く声かけてくれれば、良かったのに!」

「やっと手に入れた、可愛い子猫ちゃんを愛でて居たくてね?」

「可愛い子猫?」

「昨夜は可愛い鳴き声聞かせてくれたし、爪も立ててくれたろ?」

え?

禎憲は、“ほら?” と言って、真奈美に背中を見せた。
禎憲の背中には、深く爪が食い込んだであろう跡と、赤くなった引っかき傷がいくつもあった。

「あっ、やっだごめんなさい!
どうしよう・・痛い?何か薬」

慌てる真奈美を見て、禎憲はクスッと笑い、“たいしたことない” と言って真奈美の頭をポンポンと撫でた。

「朝の景色も良いらしいぞ?」

禎憲はカーテンを開けると、“おいで?” と、真奈美を呼んだ。
初めて見る朝の遊園地の顔。
誰一人いない遊園地は朝靄を纏い、とても神秘的だった。

「ねぇ?あそこ見て!」

「ん?」

「ほら、ゴンドラのところ、もう働いてるのかな?」

開園準備をしてるのか、キャストがゴンドラを漕いでいるのが見える。
思わず真奈美は手を振ると、キャストは振り返してくれて、子供の様にはしゃぐ真奈美を、禎憲は嬉しそうに見ていた。





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