魔法の鍵と隻眼の姫

いざ旅へ

翌朝、旅立つ二人を大々的に見送れない王達は小さな応接間で別れの挨拶をした。

ラミンは白シャツに青いベスト黒いパンツとブーツ、動きやすい服装だ。チャコールグレーのローブを被り腰には愛用の長剣。
ミレイアはシンプルな白いワンピースの上にグレーのローブに小さなカバンを引っさげただけの簡素な姿。

「我が愛しい姫よ、お前を今まで過保護に育てて来たのは間違っていたかもしれない。このような過酷な旅に出るなど、知っておればもっと色々教えることもあっただろうに。」

恨みがましくモリスデンを見やる王はミレイアを名残惜しそうに抱き締める。
どこ吹く風のモリスデンは目を合わせようとしない。

「お父様、私頑張ります。この世界の為、お父様の為に」

「ミレイア、ああ、もう一度よく顔を見せて」

「お母様、離れていても何時でもお母様の事を想っています」

「ミレイア、僕が付いて行ってあげたいのに…。ああ、何で鍵を握るのが僕じゃないんだ!」

嘆くトニアスにミレイアも苦笑い。昨日から何度も同じ事を言ってる。

「ミレイア、愛してるよ。何時でもお前の事を想っているのは僕達も一緒だ」

「はい、セイラスお兄様。毎日空に祈ります。お兄様達が幸福であらんことを」

「ぼ、僕も祈るから、ミレイアが無事に帰って来る事を」

涙目のトニアスに王と王妃も頷き目尻に涙を浮かべる。

「何をそんなに感傷的になっておるのじゃ。姫が16になる1か月後までに全て済めば直ぐに帰って来れる。今生の別れじゃないワイ」

「で、でもその間に何かあったら…」

今にも泣き出しそうなトニアスがミレイアを必死と抱き締める。

「お、お兄様…」

「その為にラミンがいるんじゃわい。いい加減理解しろ!」

「ぼ、僕はこの男を認めた訳じゃない!もし万が一守れなくてミレイアに何かあったら…」

自分を睨むトニアスにホトホト呆れたラミンは腕を組みそっぽを向く。
昨日から何度同じ事を言われたことか。
既に耳タコだ。

「あーめんどくさいな、何ならトニアス、俺とここで勝負すっか?お坊っちゃま育ちの生ぬるい稽古してるやつより俺は強いぞ?実践で鍛えてきたんだ、お前より姫を守れる自信があるぜ?」

「な…!お前!今すぐ決闘だ。どちらがミレイアを守れるかはっきりさせてやる‼」

お坊っちゃま呼ばわりされたトニアスはいきり立ちラミンに掴みかかろうとする。

「やめろ!トニアス!」

咄嗟にセイラスが止めるが騒ぐトニアスに余裕の表情で口笛を吹くラミンに余計に頭に血が上る。

「やめないか!」

王の威厳のある声でピタリと止まったトニアス。
悔しそうな顔をして俯く。
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