魔法の鍵と隻眼の姫

ゆがみ

町の中心地から少し離れた所に3階建ての宿があり今日はここに泊まろうと中に入る。
ラミンがチェックインをしていると後ろから声を掛けられた。

「ラミン、あなたラミンよね?」

名を呼ばれ怪訝な顔で振り向くと、赤いボリュームのある巻き毛に真っ赤な唇。猫目の瞳は琥珀色で目尻には泣きホクロ。大胆に開いたブラウスからは豊満な胸が見え隠れする、色気だだ漏れの美人が立っていた。


「…アマンダ?」

「そう!白銀の髪は珍しいからすぐわかったわ!こんな所で何してるの?ゴブリー地方で傭兵やってるじゃ…」

「あ~ッと!ここじゃ何だからそっちで話そう」

「ラミン?」

慌ててロビーの奥にある小さなラウンジに連れ込んで向かい合わせにソファーに座った。

「傭兵やってることをあんまり大っぴらに言うなよ!あちこちの戦場に出向いてんだ何処で恨み買ってるかわかんねえんだぞ!」

「あらそうなの?、ごめ~ん」

小声で怒るラミンに悪びれた様子もなくちょろっと舌を出したアマンダと言う女性。
ラミンとは昔馴染みらしい。

ラミンは傭兵をやってることを隠すつもりも無いが今はミレイアがいる。
変に恨みを買って一緒にいるミレイアに危害が及ぶのは避けたい。

「それよりラミン久しぶりね?アデアナロス王国で別れて以来かしら?」

アデアナロス王国とは去年まで傭兵をしてた国だ。あれから1年経つと感慨深げにラミンは頷く。

「ああ、そうだな…。お前は今はここで興行してるのか?」

「ううん、ちょっと風邪を拗らせちゃって皆にうつすといけないから私だけ通り道にあったこの町に逗留してたの。それも明日には発つけど。…ところでその後ろにくっついてるネズミさんは誰?」

「は?」

ラミンが振り向くと大きなネズミ、もとい、グレーのローブを纏い目深にフードを被ったミレイアが後ろに立っている。

「あ、悪い忘れてた」

忘れ去られたミレイアはとりあえずラミンの後を追ったが自分そっちのけで美人と話してるのにちょっとイラッとしてフードの中からラミンを睨んだ。
座っている位置からその顔が良く見えるラミンが顔を引き吊らせ隣へ座れと座席を叩く。

「………」

ほんとは文句の一つでも言ってやりたかったがじっと見てくるアマンダに居心地悪くて大人しくラミンの隣に座った。

「アマンダは旅一座の踊り子で昔馴染みだ。各地に飛び回ってると何かとはち会うんで顔見知りになった。」

「で、つかず離れずのいい仲ってとこかしら?」

「おい!」

いい仲…?
怪訝な顔のミレイアだがアマンダの方からフードを被るミレイアの顔が見えず覗き込もうとする。

「あ~俺は今こいつの護衛で一緒に旅してる。」

「ふーん、で、顔は見せてくれないの?」

「…」

さすがにフードを被ったままは失礼だろうとゆっくりとミレイアはフードを取った。
目を見開き驚くアマンダ。
綺麗な黒髪に白い頬、紫の瞳、そしてかわいい顔に似合わない眼帯。

「女の子…その目、どうしたの?」

「この目は…そう!生まれつき病気で…、この目を治すために旅をしてるんだ、な?」

何とか誤魔化そうとなぜかラミンがアタフタとミレイアとアマンダの顔を交互に見ている。

「そう…名前は?」

「あ~~~~ミミ!ミミだよな?」

「ミミ?…って言うかさっきからラミンしかしゃべってないけど?」

「・・・・」

そう言われ口を噤み隣を見ると細目で睨むミレイアに肩をすぼめるラミン。
ふむ、と二人の様子を見つめるアマンダはパンと手を叩いた。

「そうだ!今から外に食べに行かない?せっかく久しぶりに会ったんだし楽しく食事しましょうよ!いいお店があるの!」

ラミンの腕を引っ張り立たせると抱き着き擦り寄るアマンダ。
ちらりとミレイアと目が合うとにやりと妖艶に笑った。
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