偽物の恋をきみにあげる【完】
バタバタと廊下を走るやんちゃな足音が響く。

「ママー!」

沸騰した鍋からどんどん湧き出る、しつこいアクと格闘していたら、5歳になる息子の虎太朗が、キッチンに顔を出した。

「ゴハンまだー?」

「あれ、もうお腹すいたの?」

「うん、ペコペコ! ねー、ゴハンなに?」

大きな猫みたいな目をキラキラさせて、息子は私を見上げる。

「さあ、何でしょう? ヒントはパパの大好物!」

「んーとねえ……あ! わかった!カ」

「ただいまー」

息子が答えようとした時、玄関から声がした。

夫が帰ってきたのだ。

「おかえりなさーい!」

「パパ、おかえりー!」

夫もすぐに、キッチンに顔を出した。

「ちょー腹減った! ねー、メシなにー?」

猫の目をキラキラさせて、息子と全く同じことを言う夫に、思わず吹き出しそうになった。

「今日はパパの大好きなアレでーす」

私がそう告げると、

「瑠奈カレー!」

大雅は猫目を細めて、嬉しそうにくしゃっと笑った。



【偽物の恋をきみにあげる・完】


この物語を、愛する月奈(るな)と、まだ見ぬ僕達の子供に捧げます。

北瀬 虎太朗こと、大雅こと、南 大河(みなみ たいが)


◆◆◆◆◆




最後の一文字を打ち終えたら、思わず、ふう、と安堵の溜め息が漏れた。

間に合ってよかった。

あとは軽く推敲して、データを送信するだけ。

窓に目をやると、煌々とした白い月が、まんまるく輝いていた。

まるで、月奈の笑顔みたいだ。

俺はいつだって、月奈を好きで仕方ない。
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