偽物の恋をきみにあげる【完】
だいたい、大河は嘘つきなのだ。

去年の夏に余命1年宣告を受けたと言ったくせに、夏が来る前に逝ってしまったのだから。

彼は若いし、余命よりは長く生きられると思っていたけれど、たぶんその若さが仇になった。

肉体が若い分、病気の進行も早かったのだ。

大河がこの世を去ったのは、鬱陶しい雨続きだった6月半ば過ぎの、久しぶりに晴れた日の夜だった。

幸せそうに、笑って逝った。

私はその夜に見た月を、きっと一生忘れない。

優しく輝く、まんまるい月だった。



──あれから、もうすぐ3ヶ月だ。

まだ残暑が厳しい9月の頭、義兄さんから電話があった。

「弟からプレゼントが届いてるよ」

そうして郵送されてきたのは、赤い表紙をした、1冊の本。


『偽物の恋をきみにあげる』喜多野 虎太朗


全然「コタローくん」らしくない、今流行りの長めなタイトル。

そのタイトル通り、中身は嘘ばかり、偽物の恋物語が綴られていた。
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