偽物の恋をきみにあげる【完】

「結婚記念日だろ? 俺がデートしてやるよ、父さんの代わりにさ」

そう言った瞬間、母親はぎゅーっと抱きついてきた。

「わっ、ちょ、やめろって」

慌てて離れようとしたけど、母親の細い肩が震えてることに気づいて、俺は素直に抱きしめられることにした。

「虎太朗ちゃんっ……ううっ……ぐすっ……」

あーあ、泣いちゃった。

喜ばせようと思ったのにな。

「……泣くなよ。てか、ちゃん付けやめろって言ってんじゃん」

「だってぇ……」

「……明日はさ」

「……うん」

「母さんが観たいって言ってた映画、観に行こ。んで、夜は家でカレーライスね」

俺がぽんぽんと背中を叩いたら、母親は

「ありがどおー!」

鼻声でそう言って、まるで子供みたいにわんわん泣いた。

まったく……こんな泣き虫な女、置いてってんじゃねーよ。

母親の肩越しに見えた、俺そっくりの男のニヤけた写真に向かって毒づいたら、

「あとよろ!」

めちゃくちゃふざけた声が聞こえた気がした。




~End~
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