トリップしたら国王の軍師に任命されました。
2.山男、正体を現す

 明日香が異世界に来てから数日……。

「意外と向いているかも、この生活」

 丘の上に体育座りをし、ジェイルが飼っている放牧されたヤギ二頭を見守りながら、明日香は呟いた。

 朝は鶏の鳴き声と共に起床。彼らの巣から生みたて卵を拾ってくると、ジェイルが自家製チーズを炙ってくれる。それをペーターが切ったパンに乗せ、明日香が作った目玉焼きを添える。飲み物はヤギの乳だ。

『おいしい! なにこれ、おいしい!』

『こんなもので感動してくれるのか。ゆっくり食べろよ』

 ジェイルは笑い、明日香の口元についていたパンくずを指で取ってくれた。

 朝食を終えたら川で洗濯、小屋の掃除、飼っている動物たちの世話と獣舎の掃除。

 昼食を挟んで、ジェイルは狩りに出かける。飼っている動物は乳や卵のためで、肉にはしない。明日香はついていって、木の実などを収集してくる。

 他には、自分でパンをこねてかまどで焼いたり、干し肉を作ったり、畑仕事の手伝いをしたり……。川に魚釣りに行ったときは、子供みたいにはしゃいでしまった。

『全然釣れない』

 むくれる明日香の後ろから、ジェイルが一緒に竿を持つ。

『無闇にゆらゆら揺らしすぎなんだ。じっと待て』

 まるで後ろから抱きしめられているようで、明日香の頬が上気する。そうとは知らないジェイルの髪が、彼女の頬をくすぐった。
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