思いは海の底に沈む【完】
揺れる
それから痣が消えないうちに入ったオファーが面白い物だった



『痣が消えない殺人鬼の役?』

「そう。
あの有名作家の作品で一応刑事物だから湊、悪役になるのよね
どうかしら?湊は今まで爽やか系王子で恋愛物に出てたけど痣を生かして新境地に出ると言うのは」

『凄く良いね!俺、悪役になってみたかったんだ』

「とはいっても、原作を読んで分かる通り読めない性格の役なの。
分からない分あなたが役を作っていくしかないのよ」




このお話は

主人公の女警官、栗田麻衣子が奇妙な無差別連続殺人を担当している
その部下であり頼りないバディの沢友男を俺が演じることになっている


そう、俺の役は一言で纏めてしまうとサイコパスだ。
計算して麻衣子に気づかれないように無差別に人を殺す

その手口は静かに獲物を狙う、蛇のよう
それでいて表向きは麻衣子を慕うドジな熱血警官
そして一話ずつ、他の無実な人を嵌めていく

逮捕された遺族達が裁判を起こし警察はマスコミに意味嫌われていく
そして最終回で俺が捕まり疑われた人達が釈放される

何とも
正義がどこにあるのか、どこにも見当たらないような罪な作品だ






それにしてもこの役をやって腕を買われなければ
ただの嫌な役者のイメージから抜け出せないようなギャンブルな役だな


「湊…。大丈夫?重くない?」

『!うーん。正直、友男が視聴率握りそうな作品だよね。他の役者さんに飲まれないようにしないといけないから大変だけど頑張るよ!』

「で、麻衣子役なんだけどね…」


楽屋にノックなしで入ってくる
ヤバイときは鍵をかけるが割りと急いでるスタッフさんなんかは日常茶飯事だ


だが、視線の先はスタッフさんではなかった





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