魔王と勇者の望まれぬ結末
彼と私
小さな村のはずれ。
深い森の奥で私は彼らに保護された。

「キミは?こんな所で何をしているんだ!?」
「あんたは…人間…」

私は目の前に居た人間に恐怖と憎しみを感じた。少し前に大切な母親を人間に殺されたのだ。この感情が無いはずがないーー
しかし、私の目の前に居た人間は、母様を殺した人間より幼く見えた。ちょうど私と同じくらいに見え私は少しだけ身構えた。
(近くにこの人間以外もいるかもしれない。気は抜けない!)

そんな私を見て彼は、あろうことか私に対し両手を差し出した。

「僕はキミを恐がらせたりなんてしないよ。だから、一緒に行こう!…此処は、寒いから。」

私は目の前の人間が敵意を持っていないことを確認した。身綺麗にされた服装に腰には身の丈に合わないだろう刀を持っていたが、彼が笑顔で両手を広げていた姿から武器を手に取る様子も手にしようとも感じられない事が分かった。
でも今は、何故かそれで充分な気がした。…安心したのだろう。
(まだ私は生きていける。母様の願いを叶えられる。)

私は、彼の手を取り立ち上がる。
立ち上がった私に彼は満面の笑みをし、両手できつく私を抱き寄せた。
そして、小さく私の耳に囁いた。

「キミは。頑張ったんだね…もう大丈夫だ。僕が守ってあげる」
「わっ私は…わた…しは…」
「うん。大丈夫。大丈夫だから安心して。もう戦いは終わったんだ…」

そう言い彼は、私を小さな身体で抱きしめ私の肩口から戦争の残痕をしっかりと見据えていた。

「母様…私は…」
「…うん。全部僕に吐き出していいよ。…もう頑張らなくていいんだ。」
「わ…私、母様にたくさん…たくさん愛してっもらったんだ…なのに…なのにっ!」

彼の温かい腕に抱かれ私は、私の心を曝け出した。本当は、会ったばかりの敵かもしれない人間に言うわけにはいけなかった。それでも…それでも、彼のぬくもりに私の心は蕩けるように言葉を紡いだ。彼は私の拙い一言一言をゆっくり聞き、きっとぐちゃぐちゃだっただろう私の声を小さく相槌をうちながら聞いてくれた。
時折背中を”トン、トン”と優しく叩かれた。
次第に私の心は安らいで行くのが分かった。
この時に彼は何を思ったのだろう…何を考えていたのだろう。
この時の私には、解らなかった。私は、悲しい気持ちをぽつりぽつりと言葉にしながらも、ただただ久しぶりに感じた温もりを感じ涙を流した。そして彼は、私が落ち着き眠るまで抱きしめて離さなかった。

「…おやすみ。」

次に目が覚めた時には私は全身に暖かさと少しの寂しさを感じた。それは、彼が私を人の棲む家に運び込んでくれていた暖かさ。そして、もう母様を感じられないという寂しさを痛感させるものだったーー

(もう母様居ない。私にはもう誰も居ない…それでも私は…)

すると、”コン、コン”と小さく扉をノックし中に入って来たのは森の中で優しくしてくれた人間だった…
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