恋は小説よりも奇なり
Episode.8 キスと小説


その年の秋、珠子と彼女の婚約者は晴れて結婚式の日を迎える。

「満!早くしないと挙式に遅れちゃう!」

満のヘアメイクを終えたばかりの樹は早く会場へ向かうよう発破を掛ける。

「おかしくないかなぁ?スカート短すぎない?早見さんのドレスと色被ってたらどうしよう…」

親戚以外で結婚式に招待される経験が皆無な満は、極度の緊張から自らのしっぽを追いかける犬のようにくるくるとその場で回っていた。

「それ今更だからね。アタシの仕事は今日も完璧よ。さっさと行って、武長さんのハートを鷲掴んでくるのよ!気持ちが伝わったからって気を抜いてたら泣くことになるんだからね!」

満の回転を停止させ、樹は半ば強制的に美容室から追い出した。
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