月がキレイな夜に、きみの一番星になりたい。
Episode1 月夜の晩に
【蕾(つぼみ)side】

 住宅街にある一軒家。

 私はその2階にある自分の部屋のベッドから、
窓際にかけられた鳥籠を見上げる。


「あのね、モイラ」


 その白いアンティーク調の籠の中にいるのは、
頭が黄色くて、体は水色といったカラフルな毛色を
しているインコのモイラ。

部屋にひとりでいるのが寂しいと言ったら、
1年前にお母さんが買ってきたんだ。

もちろん、動物を飼いたいという意味で
言ったわけじゃない。

 私は部屋の外に出たいってことを伝えたつもりだった。
 でも、お母さんには初めから
その考えはなかったみたい。


「私ね、自由になりたいんだ」


 モイラにだけ、本当のことを話そう。
 私は今、ものすごく息苦しい。

 なんでって?
 学校に行く以外、私はこの部屋から出ることを
禁じられているから。

その理由は、紆余曲折あって長くなるけど……。

 第一に、私が痛みを感じない難病――
『先天性無痛症』だから。


「骨折しても、皮膚を切っても、やけどしても、気づかない。だって、少しも痛くないんだもの」


しかも痛みだけでなく、熱い、冷たいという温度感覚も鈍い。
指を火であぶっても、氷に押しつけたとしても、
なんとなく温度を感じる程度だ。

 私はおもむろに手を挙げて、自分の腕をまじまじと見る。
 今ここにカッターをあてたとしても、私は顔をしかめることなく、ただ流れる血を見ているだけなんだろうな。


「みんなに知られたら、きっと気持ち悪がられる……」


 私が無痛症だとわかったのは、生後9か月頃。
お母さんの話によると、私は自分の唇を血が出るまで噛んで、
病院に運ばれたことがあったのだとか。

そこでお医者さんから、歯が生えはじめた不快感で、
無痛症の子がよくする症状なのだと言われたらしい。

そうして検査を受けた私は、先天性無痛症であることが判明した。


「私がこんな身体じゃなかったら……」


思い出される苦い過去に思いを馳せる。
痛みを感じないことを、むしろラッキーだと
思って生活していた私。
その考えが180度変わる出来事があった。

あれは中学1年生のときのこと……。
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