冷徹騎士団長の淑女教育
第三章 届かぬ想い
めくるめく月日は流れた。

クレアはアイヴァンの教えを忠実に守り、淑女になるべく日々努力を重ねた。

そして気づけば九年の時が過ぎ、もう子供とは呼べない年齢になっていた。





「アイヴァン様! お待ちしておりました!」

クレアが十八歳になって半年が過ぎた頃のことだった。

みずみずしい花々が咲き誇る、春を迎えたばかりの夕方。庭の花壇に身を潜めていたクレアは、アイヴァンが横切るなり飛び出して、どさくさに紛れて彼に抱き着こうとした。

だが、あえなくスルリと交わされる。

「……きゃっ」

バランスを崩し転びそうになったクレアの肩を、逞しいアイヴァンの腕ががっしりと支えた。

そして鋭い漆黒の瞳で、きつく睨まれる。

「何歳になった? もういい加減そういうことはやめろ」

うんざりした口調で言い放つと、アイヴァンはクレアから身を離す。



クレアは小さく唇を尖らせた。この邸に来て十年になるが、アイヴァンとの距離は縮まるどころか開いている気がする。

特に、三年前ぐらいからアイヴァンはクレアが抱き着くのを極端に嫌がるようになった。それまでは、抱き着いても時々であれば受け入れてくれたのに。

クレアは隙を狙ってアイヴァンに飛びつこうとしているのだが、いつもことごとく交わされていた。

国一番の敏腕と名高い騎士となると、素早さでは叶うはずもない。




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