恋は、秘密主義につき。
1-1
「いい加減、観念して出てきなさい!」

「嫌ですーっ」

「そんな我がまま、許しませんよ?!」

「そんな横暴も許せません~!」

「どこが横暴ですか! 前からお義父さまが美玲(みれい)の為に、決めてくれてたことです、よっ」

ママの力む声がドアの向こう側から聴こえてくる。
引っ張ったって鍵は部屋の内側からロックしてあるんだから、開きっこないのに。

「とにかく、いきなり結婚は無理ですってば! 征士(せいじ)くんの顔だって憶えてませんし、今どき許婚なんて無効に決まってます~っ」

「だからさっきから言ってるでしょうっ? 結婚を申し込んできたのは、その当人なんです! それでお休みの今日、わざわざデートに誘ってくれたんですからねっ。憶えてないなら尚更、ふたりで出かけて思い出しなさい! 昔はあんなに、『セイくん、セイくん』て懐いてたじゃないのっ」  


・・・・・・知りませんてばぁ、そんな大昔の話。

盛大な溜め息を漏らして、ズルズルとフローリングの上に座り込む私。
楠田美玲(くすだ みれい)、22歳。至って普通のOL。・・・と言いたいところだけれど。

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