恋は、秘密主義につき。
3-1
『その話は明日、美玲の顔を見ながら聴かせてもらおうかな』

寝る前に電話をくれた愁兄さまは、約束どおりにデートの報告をしようとしたら優しくそう言ってくれて。
思いもがけず、また会えることに極上の気分で眠りについた私。


午後の2時頃に迎えに来てくれた兄さまを出迎えた、ママのテンションの高さと言ったら。申し訳ないですけど、征士君の比じゃありません。
相手が愁兄さまと知って、のんびりテレビに向かっていたパパまでが挨拶をしに玄関先に顔を見せています。

「ご無沙汰しています、義博(よしひろ)さん」

楠田一族内で『おじさん』『おばさん』呼びをすると、誰が誰だか分からないから、だいたいが下の名前で呼び合うのが習わしです。
和やかに笑んだ兄さまに、「いやいや、こっちこそ」と恐縮しているパパ。
どっちが歳上なんだか分かりません。

「それじゃ美玲、行こうか」

促されて外に出る間際。
私の腰に手を添えた愁兄さまが、おもむろに両親を振り返った。

「・・・鳴宮との結婚についてはもちろん、美玲の意思を尊重するつもりでいますが。ただデリケートな問題でもあるので、慎重に進めていくのが美玲の為になると僕は思っています」

先走らないように。
言外にそんな空気を纏わせて。柔らかな釘を一刺しした兄さまは、にっこりと微笑んだ。



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