そのままの君が好き〜その恋の行方〜
その日も、瞬く間に過ぎて行った。定時の退庁時刻を告げるチャイムが、鳴り響くけど、そんなものを気にしてる人は、少なくても、私の周りには誰もいない。


今日もまた残業、いやそれを残業と意識して、やっている人が、どれだけいるのだろうと思ってしまう。


かくいう自分も、退庁時間の5時で、席を立とうという気は全くない。というより、この業務を終わらせない限り、帰れない。


「桜井さん、大丈夫か?」


しばらくすると、そう声を掛けてくれたのは、3期先輩の近藤和樹(こんどうかずき)さん。


「はい、もう少しで終わります。」


私は近藤さんの顔を一瞬見て、そう答えると、すぐにまた机に視線を落とす。「もう少し」の定義は、人によって、あるいは場面によって違うかもしれないが、少なくとも今の私にとっては、言葉から受ける印象よりは、きつい状況だった。


「言葉と表情と行動が全然一致してないんだよ。」


果たして、苦笑いを浮かべた近藤さんが、そう言いながら、近づいて来る。


「だから、丁寧にやり過ぎなんだよ。桜井さんらしいと言えば、そうなんだけど、学校の課題とは違うんだから。もっと簡単明瞭にまとめないと。」


私のパソコンを覗き込むと、さっそくのご指摘が。


「はい、すいません。」


「ちょっと貸してごらん。」


そう言って、私からマウスを受け取った近藤さんは、慣れた手つきで、操作すること数分。私が苦戦していたデータ集計とコメント付けを終了させた。


「桜井さんの几帳面さはわかるけど、君が表現しようとしてたことは、要はこういうことだろ?」


「はい・・・。」


「資料というのは、見やすさと要点だよ。何でもかんでも詰め込みたくなる気持ちは、わからなくはないけど、かえって煩雑になって、誰の目にも止まらなくなる。逆効果だよ。」


優しい笑顔をたたえた近藤さんの言葉に、私は頷くしかない。
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