legal office(法律事務所)に恋の罠

3

「宇津井は大丈夫だった?」

事務所に戻り、必要書類を整理する和奏に、ニヤニヤした湊介が近づいてきた。

莉音を大学に送り届けた湊介は、そのまま事務所に戻り、父親の庄太郎の秘書業務をしていたらしい。

「いつもは付き添ってくれるのに、なんで今日は来てくれなかったの?宇津井はともかく、奏さんにはどう対応していいかわからなくて困ったじゃない」

不貞腐れる和奏は、さっきとは別人のようにリラックスしている。

叔父の庄太郎にはやはり気を遣うが、小学校三年生の時から姉弟のように育ってきた湊介とは遠慮がない。

かといって、恋愛感情はお互いに全くなく、本当の姉弟のような関係だ。

「奏さんてなんか、社会人としても男としてもイケメンだろ?宇津井なんか屁じゃない位完璧だし、そんな人が和奏の隣にいれば、宇津井も手が出せないんじゃないかと思ってさ」

ククク、と笑う湊介は憎めないキャラだ。

暖かい両親に育てられて真っ直ぐに成長した湊介にどれ程救われたか。

和奏はフッと笑みをこぼすと

「とかなんとか言って、本当は莉音さん狙いじゃないの?湊介の好みど真ん中じゃない」

「ばれたか。ついでにこのあとの食事も付き合ってくれるんでしょ?莉音ちゃんが"奏兄さんが和奏さんにお願い事があるらしいから一緒に説得してほしい"ってラインが来たんだ」

連絡先まで交換しているなんて抜け目がない。

"我が従兄弟ながら感心する"

と和奏は心のなかで呟いた。

「仕方ないわね、奏さんにも話を聞くだけならって返事してしまったし、いつもの店でよろしく」

「もう予約した」

仕事中はいつも無表情で、庄太郎や和奏の隣に飄々と立っている男はどこにもいない。

ピースなんかして自慢げな湊介が可愛い。

「だし巻き玉子は忘れずに」

そう言った和奏に、庄太郎は

「もちろん」

と笑った。

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