legal office(法律事務所)に恋の罠

9年前の春、

T大学の入学式を終えた和奏は、花の香りに誘われるように、大学院に併設された植物園に植えられている桜の花をうっとりと眺めていた。

樹齢130年のソメイヨシノの桜並木は圧巻。

桜の花びらがヒラヒラと舞う桜並木はまるで別世界にいるようだった。

時折、立ち止まっては、枝に連なる可憐な桜をスマホにおさめ、幻想的な風景に浸る。

高校の3年間、がむしゃらに勉強だけをしてきた。

ここにくるまで、こうして景色や花に心を奪われることなどなかったかもしれない。

"いや、修学旅行の時くらいはあったかな"

と、和奏が自分で突っ込んで苦笑した刹那、

後ろから、

「は、桜の花の妖精、かと思いました」

と呟く、不信な男が現れた。

真新しいスーツに身を包んだ、和奏と同じくらいの身長の小柄な男性は"いかにも高校生"といった感じにしか見えない。

ふわふわの柔らかそうな髪に、アイドルのような可愛らしい顔つき。

怪訝そうな顔をする和奏に

「ああ、不躾にごめんなさい。僕は今年この大学の理学部に入学した小池陽平です。生物学科で植物の研究をする予定になってます」

そう言ってニコニコと笑う小池の頬は、少し赤らんでいた。

「法学部1年の夢谷和奏です。あなたも桜を見に?」

当時は今のようにアイアンフェイスを売りにしていなかったので、和奏もクスッと微笑んで優しく尋ねた。

「今年は見頃が今頃になって本当にラッキーだったんだ。入学式でこちらに来る人の数も制限されてて・・・。その上、君みたいな綺麗な人に会えてラッキーなんてものじゃ・・・,ああ、ごめん!つい本音が漏れちゃって・・・」

慌てて口に手をやった小池の顔は、今度は真っ赤だ。

「植物詳しいの?」

和奏が気分を害していないのがわかって安心したのか、小池がブンブンと首を縦に振る。

「よかったらこっちの公開温室を見ない?」

その日から、和奏と小池の幼い恋が育まれていくのに、時間はかからなかった。
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