【完】さつきあめ〜2nd〜
光SIDE
光SIDE
今でも忘れられない光景がある。
あの日、初めて、光りの中に影があるというのを目の当たりにした気持ちになった。
その日は朝から晴天で、大きな屋敷のいくつも並ぶ窓から眩ゆいほどの光りが入って来ていた。
俺は光りの中で、今まで見た事のなかった人間を見つめていた。

母親の趣味で着させられていた子供ブランドの服。それとは対称的にみすぼらしく、小汚い服に身を包んでいて
伸びっぱなしの目までかかる長い髪に、ガリガリに痩せ細った体。
ぽかんと口を開けて、俺を見上げる存在。

「誰?」

俺の問いかけに、小さな子供は答える事なく、口を馬鹿みたいに開けて、こちらをじぃっと見つめていた。
ボロボロでみすぼらしいその子供の、髪の隙間から見えた瞳だけが強く俺を見据えていた。

小さな頃からうちの家の家政婦さんをしてくれていた初老のユキさんが、その子供の肩を両手で掴んで、俺においでと手招きをした。

階段をゆっくりと降りていく間も、その子は俺をずっと見つめていた。
強い強い光りを放って。

「光くーん、この子は朝日くん。
光くんのお兄ちゃんなの」

「おにいちゃん?」

お兄ちゃん、という言葉にいまいちピンとこなかった。
だって目の前にいる子供はどう見ても俺より小さくて、ガリガリで年上になんて見えなかったから。

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