【完】さつきあめ〜2nd〜
その夜、幼い頃の夢を見た。

小さな頃、わたしは今のように友達がいない子供だった。
何ひとつ不自由のない裕福な家庭で育ったわたしは、親に反抗などした事がなかった。
それが小学生の時、同級生の子が皆持っていた流行り物の人形がどうしても欲しかった。わたしはそれまでの人生親から与えられた物しか持たなかったし、身に着けなかった。それに疑問を持たずに生きてきた。そんな聞き分けの良かったわたしが初めてした親への反抗だった。

皆が持っているそれをどうしても欲して、その話を夜ご飯の時に母親にしたら、こっぴどく叱られたのを覚えている。
わたしにとって親は絶対で、親の思想はわたしの思想だった。
けれど親の思想を子供に押し付けるのは、今にして罪深い事だったと知る。

いつもなら素直に’はい’と言っていたけれど、その時のわたしはどうしてもひかなかった。
そんなわたしの態度が母親をイラつかせた。大きな企業に勤める父親は我関せずと言ったところで、わたしたちのやり取りを見て見ないふりをしていた。わたしの中の記憶が確かならば、それは物心ついた時からずっと。
初めて見せる余りの娘の聞き分けの悪さに、母親は5月のまだまだ寒さが残る夜にわたしを家から出した。

悲しくはなかった。ただ悔しかったのだけは覚えている。

虐待というほどの物ではなかった。ただ聞き分けの悪い娘を数10分家の中に入れなかっただけのこと。
わたしが素直に謝れば、母親はすぐに家にいれたと思う。
けれどわたしは謝らなかったし、あの日の自分の主張を曲げなかった。

玄関前に冷たいコンクリートの地面に座り込んでいたら、空からぽつぽつと雨が降ってきた。
気づかないくらいの、天気外れの小雨の雨。
夜空をぼぉっと見上げたら、薄暗い空に、灰色の雲がかかっていた。

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