壊れそうなほど。
プロローグ
熱気が肌に絡みつくような、やけに蒸し暑い夜。

彼に連れられて入った駅前の寿司屋は、仕事を終えたサラリーマンやOLがカウンター席を埋めつくしていた。わたし達はテーブル席に案内され、向かい合わせに座る。

店内はそこそこ冷房が効いているのに、じっとりした汗はなかなか引いてくれない。

「沙奈《さな》、なに飲む?」

対する彼は、汗ひとつ掻いていない涼しい顔。社会人になると、人は暑さに強くなるのかしら。それともわたしが汗っかきなだけ?

「とりあえず、ビールかな」

胸元にへばりつくブラウスをパタパタやりながら、わたしは答えた。

とりあえずビール、なんて言ってみたけれど、わたしはビールとカクテル以外ろくに飲んだこともない。精一杯の背伸びだ。
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