私たちの六年目
会えない
「崎田君ー、トラックの荷物ってこれで全部?」


アキ先輩に言われて、僕は「はい」と返事をした。


「あとは私が台車で運ぶから、崎田君は向こうで仕訳けを手伝って」


「はーい」


ビルの裏口から社内に入ると、僕はみんなが作業をしている部屋へと向かった。


扉を開けて、真っ先に目に入るのは菜穂さん。


相変わらず、テキパキとみんなに仕事の指示を出している。


「あ、崎田君」


僕に気づいて、菜穂さんが手を上げる。


「崎田君は、こっちで紙袋に品物を入れていってくれる?」


「はい、わかりました」


菜穂さんとはもうかなりの期間、仕事以外で話をしていない。


それは以前、僕が彼女に一方的にキスをしてしまったから、それで避けられているんだ。


本当は、前みたいに気軽に話がしたい。


一緒にご飯を食べに行ったり、お酒を飲みに行ったりしたい。


でも、僕が近づこうとすると、彼女は決まって身体をキュッと硬くしてしまうから。


必要以上に近づくことが出来ない。


僕はもう、彼女と普通に話すことさえ出来ないのだろうか……。
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