私たちの六年目



「それじゃあ明日は現地集合ね。お疲れ様」


「お疲れ様でしたー」


みんなに手を振ると、私はロッカー室を後にした。


今日は金曜日。


真っ直ぐ家に帰るのも、もう三回目ともなると少し慣れて来た気がする。


今夜は何を食べようかな。


駅前のスーパーで、半額シールのお惣菜があればそれにしようかな。


学生の頃は、結構自炊を頑張っていたのに。


社会人になってからは、あんまり作らなくなったよね。


そんなことを考えながら、会社の玄関を出た時だった。


「菜穂」


甘く響く低い声にカツンと足を止めると、植え込みの陰からまさかの人物が顔を出した。


「お疲れ」


そう言ってにっこりと微笑むのは、スーツ姿の秀哉だった。


「どうしたの? こんなところで」


秀哉が私の会社に来るなんて、初めてのことじゃないかな。


「今日、仕事で近くに来てたんだ。

もしかしたら菜穂に会えるかなって思って寄ってみた。

入れ違いにならなくて良かった」


「それなら連絡してくれたら良かったのに。

金曜日は、現場に行ってる時もあるんだよ」


「そうか、悪い。

ちょっと驚かせてやろうと思ったんだ」


思わず、ハッと短く息を吐いた。


本当に、めちゃくちゃ驚いたよ……。
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