私たちの六年目



「遅くなっちゃった。急がなきゃ」


その日の夜。


会社のロッカー室で、私は一人バタバタと焦っていた。


今夜は秀哉と会う約束をしているのに、もう時刻は19時半。


秀哉には、一時間前に遅くなると連絡しておいた。


秀哉は明日も仕事だから、あまりに私が遅い時は帰ってもいいよとも言ってある。


今のところ秀哉から"帰る"っていう連絡はないから、まだ△△駅の近くのカフェで時間を潰しているはず。


そんなわけで、メイクや髪を整える暇もない。


好きな人に会うっていうのに。


そう。


好きな人……。


ずるいと言われようが、臆病者であろうが。


私は秀哉が好き。


やめろと言われたら、なおさら好きになってしまう。


梨華の気持ちがわからないでもないな……。


理性ではいけないことだとわかっていても、心はその不倫相手を求めてしまうんだろう。


まぁ梨華と私の決定的な違いは、私は好きな相手から恋愛対象として見られていないところなんだけど。


好きな人が自分を好きってどんな感覚なんだろう。


一度でもいいから、味わってみたいな。


そんなことを考えながら、会社を飛び出したその時。


「え……、うそ……」


なんと秀哉が会社の前まで来てくれていた。
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