私たちの六年目
好きだから応じたとは絶対に言えないし、こう言うしか他に思いつかなかった。


「菜穂は俺とキスするの、嫌じゃないんだ」


なぜか少し嬉しそうな秀哉。


それがなんだか恥ずかしくて、ふいっと秀哉から視線を逸らした。


そうしたら秀哉が、まだ繋がっている手に力を込めた。


「良かった……。菜穂に嫌われたかと思った」


「なっ、嫌いになんかならないよ」


なるわけじゃないじゃない。


なれたら、もうとっくの昔にこの恋をあきらめてる。


「もうこんなことはないようにするから」


「ははは……」


そうハッキリと宣言されるのも、なんだか複雑なんだけど。


「うーん、でも……。

絶対にしないとは、ちょっと言い切れないかな」


「は?」


「うん、やっぱ約束は出来ない。

だから、先に謝っとくよ」


「はぁ~?」


思わず顔をしかめたら、クスクスと笑う秀哉。


なんだかあきれて、私も笑ってしまった。


昔から少し天然なところがある秀哉。


どうやら私はこれからも、この男に翻弄され続けるらしい。


だけど……。


前ほど胸が苦しくないのは、


二度目のキスをしたからかもしれない。


そんなことを思った6月の終わりだった。
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