恋の宝石ずっと輝かせて2
「僕を甘く見るな。僕なら喜んで手伝うだろうなんて思われてたらあまりにも侮辱過ぎる」

「仁? どういうこと? 私また無意識でなんかしちゃったの?」

 突然怒りを露にした仁にユキはおろおろしてしまった。

「トイラ、聞いているんだろ。さっき僕に言ったことユキにも教えてやれよ。ユキが納得しなければ僕は黙ってそんな卑怯なことしたくない!」

「今、なんて言ったの?」

 ユキの体が震えだした。答えを知りたいと慈悲を乞うように仁にすがった。

 仁は奥歯をかみ締めユキの目を見つめる。声が出たときは泣きそうになってしまった。

「ユキ、君の中でトイラは生きてる。しっかりと意志をもって、あのトイラのままの意識が君の中にあるんだ」

 ユキは痺れるように体が麻痺していく。

「嘘、嘘よ。それならなぜトイラは私の前に現れないの? ねぇ、私をからかってるの?」

「こんなこと、からかえる訳がないだろ。とにかく僕は帰る。今は一人にして欲しいんだ」

「待って、お願い、帰らないで。ちゃんと説明して」

「僕だって、どうしようもない。このままでは正常に話し合えない。今は自分のことしか考えられないんだ。ごめん、落ち着いたらまた来るよ」

 仁は玄関のドアを開けると、闇に吸い込まれるように出て行った。

 外ではカチャカチャと自転車の音が聞こえたが、その音もすーっと闇に飲み込まれていった。

 仁が帰ってしまったあと、ユキは暫く呆然と立っていたが、玄関の鍵をかけて戸締りを確認すると、再び居間へと戻っていった。

 誰も居ない静かな空間で、大きく一呼吸する。

「トイラ、本当に私の中であなたは生きてるの?」

 舞台の上で一人芝居の独白をしているような気分だった。

 だから自分の声で「そうだ」と言ったときは自分でも驚いた。

 それは自分の意志で言った言葉ではないのは充分理解していた。

 だが、自分ではない部分の声を発するときは意識を保つのが苦しい。

 本来の自分が引っ込んで、そのまま眠りについていくようだった。

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