ロスト・ラブ


「茜~。玄関に置いてある回覧板、お隣に持って行ってくれない?」

「はーい」


キッチンで洗い物をしているお母さんが、間延びした声でリビングにいた私にそう言ってきた。


土曜日の、まだお昼過ぎ。

明るい時間帯だからこそのお母さんからの頼みごとに、見ていたテレビを消して立ち上がる。


「あ、これか」


玄関に行くと下駄箱の上に記入済みの回覧板があって、私はそれを手に取った。


行くお隣というのは、颯太の家。

颯太と仲が悪くなってからおうちの中にお邪魔することもなくなったけど、小学校の頃は毎日のようにお互いの家を行き来して遊んでたっけ。


今は、こうして回覧板を届けにインターホンを押すところまでの関係だ。


< 32 / 285 >

この作品をシェア

pagetop