恋かもしれない
恋の定義
それから私は北本病院に一晩泊まることになって、松崎さんは家に帰っていった。

翌朝迎えに来てくれた松崎さんから、スマホと財布と家の鍵が入ったコンビニ袋を『預かっていました』と渡されたときはびっくりしたけれど、すごくホッとした。

病室で一人になったときに、所在を気にしてソワソワしていたアイテムばかりだったから。

北本先生は、男ならもっとしっかりしないとね、なんて言っていたけれど、松崎さんは冷静で的確な判断をしていたんじゃないかと思う。

でも北本先生はデキる人だから、それでも不満なのかもしれない。

並んでいた二人、とてもお似合いだった。

前に言っていた『一生懸命で素敵な人』はやっぱり北本先生のことなのかな。

また、胸が痛い。

今日は火曜日。いつも出勤してくると必ずお庭にいる美也子さんだけれど、今朝は事務所にいる。

私がお休みしたせいで、仕事が溜まっているのだと思えた。

迷惑かけていると分かって、焦ってしまう。

「おはようございます。すみません、美也子さん。昨日は突然お休みしてしまって。忙しくなかったですか」

「おはよう、奈っちゃん。それよりも体の具合はもういいの?」

私を見た美也子さんの表情が曇った。いつもより暗い表情をしている自覚はあるから、急いで笑顔を作る。

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