私の彼氏は真面目過ぎる!【完】
第1章 元カレはやっぱりクズでした

第一話 ナンパ男の常套句

「ねえ、そこのお姉さん、ちょっと俺と飲んでかない?」

 ナンパ男としてはあまりにも創意工夫のない定型フレーズ。

 もうちょっと何か自分自身のオリジナリティ出してみろやと今の私なら突っかかるかもしれない。

 そこからして私の元カレが薄っぺらい人間であることは疑いようもなかった。

……というわけで、元カレの翔馬と出会ったのはナンパがきっかけだったわけです。



 そのころ私は大学を卒業したての23歳のOL。

 バンドマンの彼氏とは卒業前に遠距離が理由で別れたばかりだった。
(でも薄々気づいていた。本当の別れの理由は遠距離じゃなく、「他に好きな女ができた」という真実に。)

 就職先は女ばかりの職場。

 化粧も香水も性格も目つきも言葉使いもきつい女先輩に囲まれ、残業続きの毎日に、私は辟易していた。

 金曜の夜、繁華街で一人寂しく飲んで、アパートに帰ろうとしていたときに声を掛けてきたのが翔馬だった。

 孤独と疲労感で冷めきった二十代の目に、翔馬は非常に魅力的な男性として映った。
 要するに、判断力と理性の低下である。



 華のあるイケメン――簡単に翔馬の外見を表現すると、そういうことになる。


 細い輪郭に、すっと美しく高い鼻。

 透き通った瞳。

 垂れ目なのがちょっとセクシーだ。

 唇は薄いけれど、優し気な微笑を浮かべているので気にならない。

 背もモデルみたいに高い。

 身に着けているジャケットや時計は一目見て有名ブランドのものだとわかる質感。

 香水のチョイスも悪くなかった。

 遊び慣れてそうな人だな――

 孤独と疲労感に加え、アルコールが入ったことでさらに判断力と理性が低下した脳味噌でも、かろうじてそれくらいの印象は持った。



 普段の私ならナンパなんてすぐにでも断っただろう。



 男を見る目がなくて、いつも駄目男に引っかかってばかりの、恋愛敗者――

 それが友人たちからの評価だった。

 きっとそれは私自身が駄目な女だからだと、一応自覚している。

 特に美人なわけではないものの、それがコンプレックスで、化粧である程度可愛く魅せるテクニックを学生時代に必死で身に着けた。

 ダイエットもファッションの勉強も頑張った。

 でもそれで手に入れた可愛さは偽物なのだ。

 偽物の分、自分に自信がなくて、とにかく男の人からちやほやされたくて、声を掛けられたらすぐにコロッと恋に落ちてしまった。哀れの極みである。

 学生時代付き合った彼氏はみんな、ある期間経つとフェードアウトしていった。

 バイト代を貸しても返済することなく消えた「元カレ」。いつのまにか別の女の子と婚約してしまった「元カレ」。

 都合が悪くなるとすぐに嘘をつくうえ機嫌次第で私を殴った「元カレ」。

 実は既婚者で社会人なのに学生のふりをしていた「元カレ」。

 どの元カレもクズぶりは多種多様なのに、最後は決まって静かにフェードアウトした。


 彼らはみんな本気ではなかった。私だけが必死ですがっていた。
「この人を逃しては、次がない」
 毎回本気でそう思っていた。

 それが私・朝井ひばりだ。

 ナンパで声を掛けてくるような男なんて、どうせクズに決まっている。


 そう普段から自分に言い聞かせるようにしてきたのに――
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