Fall in Love. ~一途な騎士団エリートによる鈍感公爵令嬢の溺愛~
強い意志で向き合えば
自分の歩く音が聞こえないほど、ふかふかな絨毯の上をそっと歩く。

思い出せば、最初は音をたてないで歩くことからだった。

お母さんが直々にマナーを教えてくれていた。

あの頃は、こんな気持ちになることなんて想像すらしていなかったのに。

あのショックは忘れられないけれど、うじうじしてばかりじゃいられないと、マリンに説得されて切り替えている。

2日たってもまだ、音信不通のフォルティス。

実はもう、私のことなんて好きじゃないのかもしれないと思ってしまう。

朝、お父様に、食堂に残って話があると言われて食堂に2人で残り、少ししたらこう切り出された。

「リリ、おまえはどうしたいんだ?

おまえが会いたくないと言えば、彼はもう2度とこの屋敷の敷居を跨ぐことはできない。」

話の内容は予想できていたから、驚きはしない。

彼とはもちろんフォルティスのことだ。

それでも、、、

「会って、お話がしたいんです。

私の気持ちに収まりがつきませんから。」

「おまえなら、そういうだろうと思ったよ。

今日の午後、フォルティス殿がリリに面会を申し込んできた。

私は、彼なりの誠意の表れだと思ったが。」

まだ、私に会う気はあるの?

何を話されるのか、薄々分かるけど、今までこんなに好きだと言ってくれていたのに、ころっと変わり過ぎだと、一言くらい文句がいいたい。

いつもまっすぐ向き合ってくれた彼には、私だって向き合いたい。

傷ついてもいいから、彼自身の言葉で伝えてほしい。

「分かりました。支度しますね。」

「あぁ。伝えておく。

因みにな、私はレイナに頬を叩かれたよ。」

お父様がぽつりと呟いた。

レイナは私のお母さんの名前だ。

信じられない。

いつも優しいお母さんが叩くなんて。

「私が、結婚を諦めようとしたんだ。

私の親戚にきつく言われて、しょんぼりしてるレイナは、幸せなのだろうかと思ってな。

自分と結婚しない方が幸せになれるんじゃないかって提案したら、ぱちーんと一発。

『私の幸せは私が決めるのよ』と言われて、目が覚めたんだ。

レイナが辛い思いをしても、私といて幸せだと感じてくれるように、レイナが私以外の人といることの、どこに幸せがあるのだろうか、とね。

2人が幸せでいるには、一緒にいなければ、意味がないんだよ。

離れて思い合うより何倍も幸せだ。

隣にいなければ、分かってあげられないこともあるからな。」

そう語るお父様の心のなかには、今も変わらずにお母さんがいるのだと分かって嬉しくなった。

それに、背中を押してくれたんだと思える。

意志が固まって、全部話してすっきりしようと決心した。

それにしても、今日の午後なんてあっという間にくる。

もう少し早く連絡をくれれば、準備だって完璧にできたのに。

今からでも、できることをして、会った時に1番きれいな自分でいたい。

そうしたら、もしかしたら思いとどまってくれるかもしれない。

「マリン!マリン?いるかしら。

午後にフォルティスが来るみたいなの。

急いで準備をしたいから、手伝ってくれない?」

「はい!

もちろんです!

今、仕事の引き継ぎを来てきますね。

昼食はどうしますか?」

「ありがとう。

そうね、、、軽めでいいわ。

それに、あっさりしたものでお願い。」

「かしこまりました!

ドレスだけでも、選べるようにクローゼットの鍵を開けてから行きます。」

「えぇ、よろしくね。

私は、クローゼットにいるわね。」

マリンはこの後の仕事を他の侍女に任せて、専念してくれるらしい。

クローゼットの電気を点けると、色とりどりのドレスがぎっしりと詰まっている。

探すものは決まっているから、大丈夫。

フォルティスのくれたドレスを着たい。

もし、振られてしまったら、着れなくなるから。

1番最初にくれたものも好きだけれど、2枚目にくれたシフォンのも、好き。

それでも、やっぱり1番最後にくれた4枚目の刺繍が施されているものが、自分に合うと思うし、手触りも抜群。

腰から金糸で小花があしらわれていて、胸元は編み上げになっている。

腕は繊細なレースが3層になっていてすごくきれい。

私の鎖骨が好きだっていうフォルティスの意見で、肩が出ているデザイン。

私の好きなデザインと、フォルティスの好きなデザインが合わさった唯一のもの。

これは、2人で異国の布を扱っているお店に行って、デザインから採寸、生地選びまでして作ってもらったもの。

思い出が詰まっていて、見ているだけで泣きたくなる。

「遅くなってしまい、すみません。

これを、当主様から預かって来ました。

奥様のお気に入りだった、ネックレスだそうです。

今、必要なのはリリアンヌだから、と。

あげないから、無事に終わったら、返して欲しいそうです。」

そう言って、開けてくれた箱はすごくきれいに保管されていたことが分かる。

中からは、ピンクがかった真珠が5粒並んでいる、シンプルなもの。

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